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【長期目標設定】なぜ長期目標は機能しないのか?採用・定着・成果をつなぐ人事マーケティングの答え


目次


12. まとめ

【はじめに】

なぜ今、「従業員の長期目標」が人事マーケティングの文脈で語られるようになっているのでしょうか。

その背景には、多くの企業が直面している共通の課題があります。それは、採用・定着・成果が分断されてしまっているという現実です。


求人を出せば人は集まる。研修や制度も整えている。

それでも——「思ったような人材が来ない」「育てても辞めてしまう」「残っている人も、成果につながらない」

こうした声は、業界や企業規模を問わず、年々増えています。


この状況に対し、「最近の若手はすぐ辞める」「やる気のある人がいない」といった個人要因に原因を求めてしまうケースも少なくありません。

しかし、本質的な問題はそこではありません。

多くの組織で起きているのは、“人が会社の中で未来を描けない構造”です。


会社は中長期計画を持っている。経営ビジョンもある。一方で、従業員個人の未来は、評価面談やキャリアシートの中で形式的に扱われているだけ。

このズレが、採用時の期待値のズレを生み、入社後の違和感につながり、やがて定着率や成果に影響していきます。


そこで注目され始めているのが、「従業員の長期目標」というテーマです。

ただし、ここで言う長期目標は、単なる「3年後どうなりたいか」「将来の夢を書かせること」ではありません。


人事マーケティングの視点で重要なのは、長期目標が“行動・感情・成果”とどう接続されているかです。

目標があるのに動けない。目標を書いても現場が変わらない。むしろ、目標がプレッシャーになっている。


こうした状態は、長期目標が悪いのではなく、設計と使い方が間違っているだけです。

本コンテンツでは、なぜ採用・定着・成果がつながらなくなっているのかを整理したうえで、「従業員に長期目標は本当に必要なのか?」そして、必要だとしたら、どう設計すれば機能するのかを解説していきます。


人事マーケティングにおいて重要なのは、人を惹きつける言葉でも、制度の数でもありません。人がここで働き続ける“意味”を、実感できる構造をつくることです。


長期目標は、その構造をつくるための一つの手段にすぎません。しかし、正しく使えば、採用・育成・定着を一本でつなぐ、非常に強力な軸になります。

【結論から言うと、長期目標は「必要な人」と「不要な人」がいる】


結論からお伝えします。従業員に長期目標は、必ずしも全員に必要なものではありません。

にもかかわらず、多くの企業では「社会人なのだから目標を持つべき」「長期目標がない=意識が低い」という前提で、全員に同じ目標設計を求めてしまっています。


ここに、人事施策が機能しなくなる大きな原因があります。

人にはもともと、未来を描くことで力を発揮するタイプと、今の積み重ねの中で力を発揮するタイプがいます。


これは意欲の差でも、能力の差でもありません。思考特性・価値観・性格特性の違いです。

たとえば、

  • 将来のビジョンを言語化すると、行動量が一気に増える人

  • 数年先の話をされると、不安や違和感が先に立ってしまう人

  • 明確なゴールより、「今できている実感」があるほうが動ける人

これらの人たちに、同じ形式の長期目標を求めた場合、当然、反応は分かれます。


前者にとって長期目標は「エネルギー」になりますが、後者にとっては「重荷」や「評価されるための建前」になりやすい。


この違いを無視したまま「目標を持たせれば、人は成長する」と考えてしまうと、現場では次のようなことが起きます。

  • 目標は毎年書くが、内容はほとんど変わらない

  • 上司と部下の面談が形式的になる

  • 目標を語る人と、黙る人の分断が生まれる

結果として、長期目標は“あるだけ”の存在になってしまいます。


ここで重要なのは、「長期目標をなくすべきかどうか」ではありません。

本当に考えるべきなのは、誰に、どのような形の長期目標が機能するのかという設計の問題です。


長期目標は、人を管理するためのツールではありません。本来は、本人が「ここで働く意味」を見出すためのものです。


だからこそ、人事マーケティングにおいては、長期目標を「全員に持たせるもの」ではなく、“選択できる設計”として扱う必要があります。


この考え方を押さえないまま、次の章で扱う「目標が機能しない理由」に進んでしまうと、表面的な改善に終わってしまいます。


次のパートでは、なぜ多くの企業で長期目標が形骸化してしまうのかを、よくある3つの原因に分けて整理していきます。

【長期目標が機能しない3つの理由】

多くの企業で、長期目標がうまく機能していないのには、はっきりとした共通点があります。

それは、目標そのものが悪いのではなく、設計の前提がズレているという点です。

ここでは、特に多く見られる3つの理由を整理します。


理由①:会社のビジョンと個人の人生が接続されていない

企業には、中長期の経営ビジョンがあります。一方で、従業員にはそれぞれの人生があります。

問題が起きるのは、この2つを無理に一致させようとしたときです。

たとえば、

  • 「会社の成長=個人の成長」と言葉では言っている

  • しかし、個人の価値観や優先順位を深く聞く場がない

  • 結果として、会社目線の目標を“借りて書く”状態になる

この状態では、長期目標は「自分の未来」ではなく、会社に求められている正解になってしまいます。

本人が心から納得していない目標は、どれだけ立派な言葉でも行動にはつながりません。


理由②:抽象度が高すぎて、日常業務と結びつかない

「成長したい」「キャリアアップしたい」「会社に貢献できる人材になりたい」

これらは、よくある長期目標の言葉です。しかし問題は、具体的な行動に変換できないことです。

抽象度の高い目標は、一見前向きに見えますが、日々の業務の中ではこう思われがちです。

  • 今日の仕事と、この目標はどう関係しているのか

  • 何ができるようになれば前進なのか分からない

  • 評価のために書いただけで、意識しなくなる

結果として、長期目標は「年に一度思い出すもの」になってしまいます。

人は、未来の理想より、今できたことの実感によって動き続けます。この設計がない限り、目標は行動に落ちません。


理由③:性格・価値観を無視して、同じ目標設計をしている

最も見落とされがちなのが、この点です。

人には、

  • 将来像を描くことで力を発揮する人

  • 目の前の役割を積み重ねることで力を発揮する人

  • 承認や貢献実感が原動力になる人

といった、動機づけのタイプの違いがあります。

にもかかわらず、

  • 同じフォーマット

  • 同じ質問項目

  • 同じ評価基準

で長期目標を設定してしまうと、一部の人だけが前に出て、多くの人が「黙る」「形だけ書く」状態になります。


これは能力差ではありません。設計が合っていないだけです。

長期目標が機能しないのは、個人の問題ではない

ここまで見てきた3つの理由に共通するのは、「本人のやる気」や「意識の低さ」が原因ではない、という点です。

  • 未来を描けない構造

  • 行動につながらない設計

  • 性格を無視した一律運用

この状態で「目標を持て」と言われても、人は動けません。


だからこそ、人事マーケティングにおいては、長期目標を“正しいかどうか”で議論するのではなく、“機能する設計になっているか”で考える必要があります。

次のパートでは、それでもなお、なぜ長期目標が必要だと言われ続けるのか、そして、機能したときに組織にもたらす価値について整理します。

【それでも長期目標が必要な理由】

ここまで読むと、「だったら長期目標なんて、なくてもいいのでは?」そう感じた方もいるかもしれません。

実際、設計されていない長期目標であれば、無理に続ける必要はありません。むしろ、現場の疲弊を生むだけです。

それでもなお、人事マーケティングの文脈で「従業員の長期目標」が語られ続けるのには、理由があります。


それは、長期目標が“機能したとき”の影響力が、非常に大きいからです。

長期目標が機能すると、組織に起きる3つの変化


① 行動に「意味づけ」が生まれる

日々の業務そのものは、どの会社でも大きく変わらないことがほとんどです。

しかし、

  • なぜこの仕事をやっているのか

  • これが将来、何につながるのか

が見えている人は、同じ業務でも行動の質が変わります。

長期目標は、未来のための計画というより、今の行動に意味を与えるための装置です。


② 「辞めない理由」ではなく「続けたい理由」が生まれる

定着施策というと、待遇・制度・働きやすさに目が向きがちです。

もちろん、それらは重要です。しかし、それだけでは「条件が良いところがあれば移る」状態は防げません。

一方で、

  • ここで経験を積む意味がある

  • 今の自分は前に進んでいる実感がある

こうした感覚を持っている人は、簡単には離れません。

長期目標は、人を縛るためのものではなく、本人が選び続ける理由をつくるためのものです。


③ 採用メッセージと現場のズレが減る

人事マーケティングにおいて、最も避けたいのは「入社前と入社後のギャップ」です。

長期目標が適切に設計されている組織では、

  • どんな価値観の人が合うのか

  • どんな成長の仕方ができるのか

が、言語化されています。

その結果、

  • 採用時のメッセージが具体的になる

  • 入社後の違和感が減る

  • 早期離職のリスクが下がる

という好循環が生まれます。


長期目標の本当の役割は「管理」ではない

ここで改めて強調したいのは、長期目標の役割は、人を管理することでも、評価することでもありません。

本質は、人が「この環境で成長している」と実感できる構造をつくることです。

そしてその構造があるからこそ、

  • 採用で共感が生まれ

  • 現場で行動が続き

  • 成果として返ってくる

という、人事マーケティングの循環が成立します。

次の章では、この循環がうまく回らない多くの組織で見落とされがちな、「人は目標ではなく、◯◯で動く」という視点について掘り下げていきます。

【人は「目標」ではなく「実感」で動く】

多くの人事施策は、「正しい目標を設定すれば、人は動く」という前提で設計されています。

しかし、現場を見ていると分かる通り、目標がある=行動できるとは限りません。

むしろ、目標を持たせたことで動けなくなってしまう人も少なくありません。

この違いを生む鍵が、「実感」という視点です。

人は未来の理想より、「今できている感覚」で動く

心理学・行動科学の分野では、人の行動継続には共通した特徴があることが分かっています。


それは、人は「遠いゴール」よりも、「進んでいる感覚」によって行動を続けるということです。

たとえば、

  • 昨日より少しできることが増えた

  • 誰かの役に立てた実感がある

  • 前よりもスムーズに仕事ができた

こうした小さな実感が積み重なることで、人は「もう少し続けてみよう」と思えるようになります。


逆に、どれだけ立派な長期目標があっても、日常の中でこの実感が得られなければ、目標はただの“遠い理想”になってしまいます。


長期目標が人を止めてしまう瞬間

長期目標が機能しなくなる典型的なパターンがあります。

それは、目標と現在地の距離が遠すぎるときです。

  • 自分にはまだ遠い

  • 何年かかるか分からない

  • 本当にたどり着けるのか不安

こうした感情が先に立つと、人は無意識のうちに行動を抑制します。

これは怠慢ではありません。脳が「失敗のリスク」を回避しようとしているごく自然な反応です。

つまり、長期目標が人を動かさないのではなく、設計の仕方によっては、人を止めてしまうのです。


「実感」を中心に設計すると、目標は後からついてくる

ここで視点を一度、逆にします。

  • まず、行動できた

  • 次に、できることが増えた

  • その結果、未来を描けるようになった

この順番で人は成長します。

このとき、長期目標は「スタート地点」ではなく、後から言語化されるものになります。

人事マーケティングにおいて重要なのは、最初から壮大な目標を語らせることではありません。

  • 日々の業務の中で、どんな実感を得られるのか

  • それを誰が、どう言語化し、承認するのか

この設計こそが、目標を“意味のあるもの”に変えます。


長期目標は「ゴール」ではなく「編集素材」

ここまでの話を踏まえると、長期目標の位置づけは明確になります。

長期目標は、人を動かすためのゴールではありません。これまでの実感を、未来のストーリーとして編集するための素材です。

  • 何ができるようになったのか

  • どんな役割を果たしてきたのか

  • どんな価値を提供してきたのか

これらを振り返った先に、自然と「この先どうなりたいか」が見えてきます。

この順番を守ることで、長期目標は初めて行動・感情・成果と接続されたものになります。

次の章では、この考え方を前提に、長期目標を“設計可能なもの”にするための基本思想を整理します。

【長期目標を達成させるための基本設計思想】

ここまでで見てきた通り、長期目標が機能するかどうかは、「目標の内容」よりも設計の考え方でほぼ決まります。

どれだけ立派な言葉を並べても、設計思想がズレていれば、長期目標は行動にも成果にもつながりません。

ここでは、人事マーケティングの視点で押さえておくべき3つの基本設計思想を整理します。


設計思想① 長期目標は「分解」ではなく「翻訳」する

多くの企業では、長期目標を「細かく分解する」ことで実行しやすくしようとします。

しかし、これは半分正しく、半分間違いです。

なぜなら、長期目標はそもそも抽象度の高い概念であり、無理にタスクレベルまで分解すると、本人の実感と乖離しやすくなるからです。

重要なのは分解ではなく、翻訳です。

  • この目標は、今の業務で言うと何を大切にすることなのか

  • 今日の仕事の中で、どんな行動として表れるのか

未来の言葉を、現在の行動言語に置き換える。これができて初めて、目標は日常に溶け込みます。


設計思想② 未来から現在を見るのではなく、現在から未来をつくる

従来の目標設計は、「5年後どうなりたいか?」から始まります。

しかし、未来を具体的に描けない人にとって、この問いは重すぎます。

そこで必要なのが、視点の転換です。

  • 今、何ができるようになっているのか

  • 何を任されるようになったのか

  • 誰から頼られるようになったのか

現在地の確認からスタートし、そこから未来を“積み上げていく”。

この順番にすることで、長期目標は「空想」ではなく、延長線上にある現実になります。


設計思想③ 会社目標と個人目標を無理に一致させない

よくある誤解の一つが、「会社のビジョンと個人の目標は一致しているべきだ」という考え方です。

もちろん、方向性が大きくズレていないことは重要です。

しかし、完全な一致を求めると、個人の目標は一気に“建前”になります。

人事マーケティングにおいて大切なのは、一致させることではなく、接続点をつくることです。

  • この会社での経験が、本人の人生にどう役立つのか

  • 本人の価値観が、どんな形で組織に還元されるのか

この「接点」が見えるだけで、人は自分ごととして働けるようになります。


長期目標は「管理ツール」ではなく「対話ツール」

ここまでの設計思想をまとめると、長期目標の位置づけは明確です。

長期目標は、評価や管理のためのものではありません。対話を生むためのツールです。

  • 今、どこにいるのか

  • 何にやりがいを感じているのか

  • どんな実感が増えているのか

こうした対話があるからこそ、長期目標は更新され、意味を持ち続けます。

次の章では、この設計思想を具体的に実装するために、性格特性(Big Five)から逆算する目標設計メソッドを紹介します。

【メソッド①】性格特性(Big Five)から逆算する目標設計

ここまでで、「長期目標は全員に同じ形で与えるものではない」という前提を整理してきました。

では、どんな人に、どんな目標設計が合うのか。

その判断軸として有効なのが、性格特性(Big Five)という考え方です。


なぜ性格を無視した目標は続かないのか

多くの人事施策では、スキル・経験・役職を基準に目標を設計します。

しかし実際には、同じ仕事・同じ環境でも、

  • 前向きに挑戦する人

  • 不安を感じやすい人

  • コツコツ続ける人

  • 変化を好む人

と反応は大きく分かれます。

この違いを生むのが、性格特性=「行動の出やすさの傾向」です。

Big Fiveは、人の性格を以下の5つの軸で捉える理論です。

  • 開放性(新しいものを好むか)

  • 誠実性(計画的・継続的に行動できるか)

  • 外向性(刺激・他者との関わりで動けるか)

  • 協調性(周囲との調和を重視するか)

  • 神経症傾向(不安やストレスを感じやすいか)

重要なのは、どれが良い・悪いではないという点です。

それぞれに、動きやすい条件と、動きにくい条件があります。


目標が「燃料」になる人/「ブレーキ」になる人

たとえば、開放性や外向性が高い人にとっては、

  • 将来のビジョン

  • 新しい役割

  • 成長ストーリー

は、行動の燃料になります。

一方で、神経症傾向が高い人や、不確実性が苦手な人にとっては、

  • 先の見えない長期目標

  • 抽象的な期待

  • 曖昧な評価基準

が、不安や萎縮の原因になることがあります。

この場合、同じ「長期目標」でも、

  • 前者にはアクセル

  • 後者にはブレーキ

として作用してしまいます。

つまり問題は、目標の有無ではなく、その人の性格特性に合った“目標の形”を選べているかです。


人事がやるべきは「目標設定」ではなく「目標の型選び」

人事の役割は、「この人にどんな目標を持たせるか」を決めることではありません。

本来やるべきなのは、どんな“型”の目標が合うかを見極めることです。

たとえば、

  • ビジョン型:将来像・役割を描くことで動ける人

  • 実感型:できることの積み上げで動ける人

  • 貢献型:誰かの役に立つことで動ける人

こうした型を用意し、本人が選べる・調整できる状態をつくる。

これだけで、長期目標は「やらされ感」から一気に離れます。


性格特性 × 人事マーケティング

Big Fiveを目標設計に取り入れると、人事マーケティング全体にも変化が生まれます。

  • 採用時:どんな人が合う環境かを言語化できる

  • 育成時:個人に合わせた関わり方ができる

  • 定着時:無理な期待やズレが減る

結果として、「いい人が来ない」ではなく、「合う人が集まる」組織に近づいていきます。

次の章では、この性格特性の考え方をさらに一歩進め、感情の動き(エモーショナル設計)という視点から、長期目標を行動につなげる方法を解説します。

【メソッド②】エモーショナル設計:感情の通り道をつくる

長期目標を立てても、行動が続かない、成果につながらない——その原因は、意志の弱さではありません。

多くの場合、感情の通り道が設計されていないだけです。

人は、「正しいから」動くのではなく、「そう感じたから」動き続けます。

だからこそ、長期目標を機能させるには、論理や制度の前に、感情の流れを設計する必要があります。


行動を継続させるのは「感情のループ」

人が行動を続けるとき、そこには共通した感情の流れがあります。

それは、

  1. 行動した

  2. 何かしらの反応が返ってきた

  3. 感情が動いた

  4. 「またやろう」と思える

というシンプルなループです。

この中で特に重要なのが、②と③です。

  • 誰にも気づかれない

  • 何が良かったのか分からない

  • 成果が見えない

こうした状態では、感情が動かず、行動は止まります。

逆に、

  • 小さな変化に気づいてもらえた

  • 役に立っている実感があった

  • 成長を言葉にしてもらえた

このとき、人は「続けてもいい」と感じます。


長期目標が続かない組織に共通する欠落

長期目標が形骸化している組織では、次のような欠落がよく見られます。

  • 成果が出たときしか反応しない

  • 行動プロセスが評価されない

  • 感情に触れるフィードバックがない

この状態では、長期目標は「結果が出た人のためのもの」になり、多くの人は距離を置いてしまいます。

エモーショナル設計とは、結果の前に、感情が動くポイントを用意することです。


エモーショナル設計の3つの視点

① 達成感:できたことを“見える化”する

人は、自分が進んでいると実感できたときに、初めて未来を描けます。

  • できるようになったこと

  • 任されるようになったこと

  • 昨日よりスムーズにできたこと

これらを、意識的に言語化・可視化する。

長期目標は、この積み重ねの延長線上に置くことで、「現実味のある未来」になります。

② 成長実感:「前より」をつくる

成長とは、大きな変化ではありません。

  • 前より早くできた

  • 前より迷わなくなった

  • 前より人に頼られた

こうした比較可能な変化が、感情を動かします。

評価や面談では、「できた/できていない」ではなく、**「前と比べてどうか」**を軸に会話することが重要です。

③ 承認:存在と行動を肯定する

承認というと、褒めることだと思われがちです。

しかし本質は、「見ている」「分かっている」と伝えることです。

  • 結果が出なくても、挑戦を認める

  • 目立たない行動に意味を見出す

  • 役割として価値があることを伝える

この承認があるからこそ、人は安心して行動できます。


感情が動くと、目標は“後から”意味を持つ

エモーショナル設計を先に行うと、長期目標の位置づけが変わります。

目標は、人を動かすための指示書ではなく、感情の積み重ねを言語化する装置になります。

  • ここまでやってきた自分

  • これだけ積み上げてきた実感

  • だから、次はこうなりたい

この流れができて初めて、長期目標は自然に更新され、行動と結びつきます。

次の章では、この感情設計をさらに実務に落とし込み、長期目標を“日常業務”に埋め込む方法を解説します。

【メソッド③】長期目標を“日常業務”に埋め込む方法

長期目標が機能しない最大の理由は、日常業務と切り離されていることです。

  • 目標は面談のときだけ話すもの

  • 現場の仕事は、ただ回すもの

  • 両者が交わることがない

この状態では、どれだけ良い設計思想や心理設計があっても、長期目標は「別枠の存在」になってしまいます。

重要なのは、長期目標を“特別なもの”にしないことです。


長期目標を埋め込むとは「意識させる」ことではない

よくある失敗が、「長期目標を意識させよう」とすることです。

  • 毎朝唱和する

  • 壁に貼る

  • 面談で何度も確認する

これらは一時的な効果はありますが、日常業務と結びつかなければ長続きしません。

埋め込むとは、意識しなくても、結果的につながっている状態をつくることです。

① 日常業務に「意味のラベル」を貼る

まずやるべきことは、日々の業務に意味を与えることです。

たとえば、

  • この業務は「判断力」を育てる仕事

  • この役割は「周囲を支える力」を磨くもの

  • この対応は「信頼を積み上げる練習」

といったように、業務 × 成長要素を言語化します。

これにより、目の前の仕事が「ただの作業」から、長期目標につながる“材料”に変わります。

② 評価・1on1は「目標確認」ではなく「実感回収」の場にする

多くの面談では、「目標に近づいているか」が確認されます。

しかし、本当に必要なのはそこではありません。

聞くべきなのは、

  • 最近、できるようになったことは何か

  • 前より楽になった業務は何か

  • 誰から、どんな反応をもらったか

つまり、実感の回収です。

この実感を言語化してあげることで、長期目標は自然とアップデートされていきます。

③ 役割と期待を「固定」ではなく「進化」させる

長期目標がある人は、役割が少しずつ変化しています。

  • 任される範囲が広がる

  • 周囲からの期待が変わる

  • 求められる視点が一段上がる

これらを意図的に設計し、本人に伝えることが重要です。

「次はこれを期待している」この一言があるだけで、日常業務は“未来へのステップ”になります。

④ 動画・言語・ストーリーで「見える化」する

人事マーケティングの視点では、ここが非常に重要です。

  • 成長している人のストーリー

  • 日常業務がどう未来につながったか

  • どんな実感を経て今に至ったか

これらを、動画・インタビュー・社内コンテンツとして可視化する。

そうすることで、長期目標は「個人の話」から、組織の文化になります。


長期目標は“仕組みの中で勝手に育つ”状態をつくる

ここまでのポイントをまとめると、長期目標を埋め込むとは、

  • 業務に意味があり

  • 実感が回収され

  • 役割が進化し

  • ストーリーが共有される

この循環をつくることです。

この状態では、長期目標は管理しなくても育ちます。

次の章では、これらのメソッドを人事マーケティングの各フェーズ(採用・育成・定着)でどう使うかを整理します。

人事マーケティングにおける「長期目標」の役割

ここまで見てきた通り、長期目標は「個人のやる気を引き出すためのもの」ではありません。

人事マーケティングの文脈で見ると、長期目標は採用・育成・定着を一本でつなぐ“軸”として機能します。

重要なのは、各フェーズでの役割を取り違えないことです。


採用フェーズ:長期目標は「見せるもの」ではなく「選別軸」

採用の場でよくあるのが、成長できる環境、キャリアアップ、将来性——といった抽象的な言葉の羅列です。

しかし、これでは「誰にとって合う会社なのか」が伝わりません。

ここで長期目標が果たす役割は、理想を語ることではなく、合う・合わないを明確にすることです。

  • どんな成長の仕方を大切にしているのか

  • どんな価値観の人が活躍しやすいのか

  • どんな実感を積み上げていく組織なのか

これらを言語化することで、「なんとなく良さそう」ではなく、「自分に合っていそう」という共感が生まれます。

結果として、ミスマッチ採用を減らすことにつながります。


育成フェーズ:長期目標は「管理」ではなく「伴走」のために使う

育成の場面では、長期目標が「管理ツール」になりがちです。

  • 目標に沿っているか

  • 進捗はどうか

  • 達成できそうか

しかし、本来の役割はそこではありません。

育成における長期目標の役割は、対話の軸になることです。

  • 最近、どんな実感が増えているか

  • どんな仕事が楽になってきたか

  • 次に挑戦してみたいことは何か

こうした対話を重ねることで、長期目標は更新され続ける“生きたもの”になります。


定着フェーズ:長期目標は「縛るもの」ではなく「選び続ける理由」

定着施策というと、給与・福利厚生・制度改善に目が向きがちです。

もちろん重要ですが、それだけでは限界があります。

人が組織に残るかどうかを決めるのは、「ここにいる意味があるかどうか」です。

  • 自分は前に進んでいると感じられるか

  • ここでの経験が、人生につながっているか

  • 自分の存在価値が実感できているか

長期目標は、これらを言語化するための装置になります。

だからこそ、長期目標は人を縛るためではなく、本人が「ここを選び続ける」ための理由として使われるべきです。


人事マーケティングで長期目標を扱うときの注意点

最後に、人事マーケティングの視点で長期目標を扱う際の注意点をまとめます。

  • 長期目標を“正解”として押し付けない

  • 語れる人だけを評価しない

  • 目標の有無で人を判断しない

長期目標は、人を選別するための基準ではありません。

人と組織の接点を、丁寧につくるためのツールです。

次の章では、こうした考え方を無視してしまった結果、実際に起きている「やってはいけない長期目標運用」を、失敗事例から整理していきます。

失敗事例から学ぶ「やってはいけない長期目標運用」

長期目標そのものが原因で、組織がうまくいかなくなることは、実はほとんどありません。

問題になるのは、長期目標の“運用の仕方”です。

ここでは、多くの企業で実際に起きている代表的な失敗パターンを整理します。


失敗① 長期目標を「持たせること」が目的化している

最も多い失敗がこれです。

  • 長期目標を書かせること自体がゴールになっている

  • フォーマットを埋めればOKになっている

  • その後、ほとんど振り返られない

この状態では、長期目標は「提出物」になります。

本人にとっては、

  • 本音を書くと評価に影響しそう

  • 正解を書いたほうが楽

  • どうせ見られていない

という心理が働き、結果として建前の目標だけが量産されます。


失敗② 長期目標を評価・査定と強く結びつけすぎる

長期目標を人事評価と強く結びつけると、別の問題が起きます。

  • 安全な目標しか書かなくなる

  • 挑戦的な内容が消える

  • 失敗を隠す文化が生まれる

本来、長期目標は試行錯誤のためのものです。

しかし、評価と直結すると、「正しく見せるための目標」に変質してしまいます。

結果として、行動量も学習量も減っていきます。


失敗③ 熱量の高い一部だけが疲弊する

長期目標を語ることが得意な人、言語化が上手な人は、どうしても目立ちます。

その結果、

  • 目標を語れる人に仕事が集中する

  • 語らない人は評価されにくくなる

  • 静かに頑張る人が疲弊する

という分断が起きます。

これは、長期目標が悪いのではなく、「語れる人=優秀」という誤ったメッセージが組織に伝わってしまうことが原因です。


失敗④ 管理職自身が、長期目標を信じていない

意外と多いのが、このケースです。

  • 上から言われたからやっている

  • 正直、意味を感じていない

  • 面談でも形だけ確認している

管理職が本気で使っていない制度は、現場にも必ず伝わります。

結果として、長期目標は「人事がやりたいこと」「形式的な取り組み」として扱われるようになります。


失敗⑤ 長期目標を“変えてはいけないもの”にしてしまう

人は変わります。価値観も、環境も、役割も変わります。

にもかかわらず、

  • 一度決めた目標を修正しにくい

  • ブレることが悪いとされる

  • 変更=逃げだと思われる

こうした空気があると、長期目標は一気に重荷になります。

本来、長期目標は更新され続けるものです。

変わることを許容しない運用は、人の成長を止めてしまいます。


失敗の共通点:長期目標を「固定物」として扱っている

ここまでの失敗事例に共通しているのは、長期目標を固定された正解として扱っている点です。

長期目標は、

  • 話すための材料

  • 振り返るための軸

  • 実感を整理するための言葉

であって、守るべきルールではありません。

次の章では、ここまでの内容をまとめながら、これからの人事マーケティングにおいて、長期目標をどう位置づけるべきかを整理します。

【まとめ】

長期目標は「持たせるもの」ではなく「育つ構造」をつくるもの

本コンテンツでは、「従業員に長期目標は本当に必要なのか?」という問いからスタートし、その是非ではなく、設計と運用の問題として整理してきました。

結論として、長期目標は「正しいから必要」なのではありません。機能する設計になっているときにだけ、意味を持つものです。


長期目標が機能しなくなる理由は、人ではなく構造にある

長期目標が形骸化している組織では、次のような構造が見られます。

  • 全員に同じ形の目標を求めている

  • 日常業務と切り離されている

  • 感情や実感が回収されていない

  • 評価・管理と結びつきすぎている

この状態で「目標を持て」「やる気を出せ」と言われても、人は動けません。

それは意識の問題ではなく、設計の問題です。


人は「目標」ではなく「実感」で動く

人が動き続けるために必要なのは、遠い未来の理想ではなく、

  • できるようになったという実感

  • 誰かの役に立っている感覚

  • 前に進んでいるという手応え

こうした日々の実感の積み重ねです。

長期目標は、この実感を整理し、未来のストーリーとして言語化するためのもの。

スタート地点ではなく、編集地点に置くことで初めて機能します。


これからの人事マーケティングに必要な視点

人事マーケティングの本質は、人を集めることでも、辞めさせないことでもありません。

人が「ここで働き続けたい」と感じる理由を、構造としてつくることです。

そのために、

  • 性格特性(Big Five)を踏まえた設計

  • 感情の通り道を意識したエモーショナル設計

  • 日常業務に埋め込まれた成長実感

これらを前提に、長期目標を「選べる」「更新できる」ものとして扱う。

この考え方が、採用・育成・定着を一本でつなぎます。


人事の役割は「目標を与えること」ではない

最後に、このコンテンツを通して最も伝えたいことをまとめます。

人事の仕事は、目標を持たせることでも、やる気を引き出すことでもありません。

人が動き続けられる環境と構造を設計することです。

長期目標は、そのための数ある手段の一つにすぎません。

しかし、正しく設計され、運用された長期目標は、人事マーケティングにおいて非常に強力な“軸”になります。

この考え方が、「長期目標=正しいこと」という思い込みを外し、より現実的で、人に寄り添った人事マーケティングを考えるきっかけになれば幸いです。

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